2007年5月3日 インド  バラナシより  ポールは害虫です。

世界一周ブログ
僕は何故かムキになって、
話しかけてくる奴の言われるがままに流され最後にそいつが手のひらを返してくると激しく口論をする、
ということを繰り返していた。
今思えば、僕はまだ信じたかったのだと思う。
その中に、一人でも僕を金としてじゃなく、人として見てくれる人を見つけたかったのだと思う。
その時の僕には、そんな自覚はなかった。
ただやみくもにインド人に飛び込んでいた。

夜7時、ガンジス河のガートでプジャー(礼拝)が行われていた。
男が数人川に向かって並び、大きな火を体の周りに回転させながら祈りを捧げていた。
たくさんの民衆がその後ろに座り、鐘を鳴らしたり手を合わせたりしながらともに祈っていた。
それは、幻想的な光景だった。
最後まで見届けて帰ろうとすると頭に籠をのせた少女が僕に近づいてきた。
「NO MONEY NO MONEY」
そう言って籠のなかの花を僕に渡そうとする。
それからの成り行きは想像できたが、僕は意地悪な気持ちになってその花を手にした。
少女が花に火をつけた。
これを家族の名前を言いながらガンジス河に流せば、僕の家族は幸せになれるらしい。
僕は言われるままにした。
河のうえに小さな光が漂っていくのは綺麗だった。
みると河にはいくつもの光が灯りゆらゆらと穏やかに揺れていた。

「お金ちょうだい。
じゃないとお母さんが怒るの。
お金ちょうだい。」

「NO MONEY っていっただろ?
お金は払わないよ。」

「じゃないと幸せになれないよ。」

「ああそうかい。
だったら俺は不幸せさ。
幸せがそんなに簡単に買えるかよ。」

僕は少女を置き去りにして立ち去ろうとした。
しかし少女はついてきた。

「お金ちょうだい。」

「あげないよ。NO MONEY って言っただろ?」

「お金ちょうだい」

「あげないよ。」

少女はどこまでもついてきた。

「お金ちょうだい。」

僕は殺意すらこもったかのような形相で振り返り、少女に対して言い放った。

「お前には絶対!!金は払わない!!」

少女は立ちすくんだ。
そしておびえた目をして僕を見つめ、言葉をこぼした。

「I am sorry 」

その言葉は強烈に僕の頭をぶったたいた。
音が消えて、視界がせまくなった。
熱いものが胸から昇ってきた。

「I am sorry 」

僕は何をしたんだ。
僕は何をしたんだ。
なんで、この子はこんなこと言わなきゃならないんだ。
「I am sorry 」なもんか、
僕にそんな言葉を受け取る資格はない。

この子には、何もないのだ。
選択肢が。
こうするしかないのだ。
こうやって生きていくしかないのだ。
それを誰が責められるだろう。
それを誰が咎められるのだ。
僕は、その少女の、何も頼るものもすがるものもない少女の、押し拉がれた小さな心をなぶり、踏み潰したのだ。
その子の心は、もうこれ以上ないほどに痛めつけられているだろう。
これ以上下がないほどに苛め抜かれているだろう。
そんな少女の心を、僕はさらに上から踏み潰したのだ。

僕は何をやっているのだ。
何をやっているのだ。

悪趣味な、下劣な、、、、最低だ。

僕はその場から逃げた。

どうすればいいのだ。
僕はどうすればいいのだ。

わかっていたのだ。はじめから。
原因はもっと大きなもので、どうしようもないものだということくらい。
あの子は無力だ。あわれなほどに無力だ。
だけど、僕も、その大きなものの前では変わらずに無力なのだ。
今の僕には何もすることはできない。
僕には何の力もない。


そして、僕には彼らのために何かをしようという意思もない。

しかし、僕はなぜあんなことをしていたのだろう。
あまりにも悪趣味なことだ。
僕は、僕も、僕だって、、変わりはしない。
ただの害虫じゃないか。
そこで黙っている無害な石以下だ。

僕にできることは、打ち捨てられたゴミのようにあの子を、彼らを見て見ぬふりすることだけだ。

何もできないなら、何もするつもりがないなら、せめて害にならないようにしよう。

それが僕のできるすべてだ。

それが僕だ。

とことん、インドにいるのが嫌になった僕。

この時の苦い経験が、原体験として残っている。

インドを想うとゴキブリを思い出す。

生理的に嫌い。

心を準備してからじゃないと立ち向かえない。



香港時代、キャセイの女の子たちとの合コン帰り。

参加者の一人の可愛いインド人女性が、

道で這い回っていたゴキブリをおもむろに捕まえて、

手に乗せてヨシヨシした光景が鮮やかにフラッシュバックする。



カオス。

その言葉がインドにはふさわしい。




日本にいるとカオスって少ないよなー。

いろんな世界を経験して、

日本の居心地の良さを存分に味わえる僕には今や楽園だけど、

この安全安心な驚きの少ない世界を、

僕はかつてとても退屈に感じていた。







河に流した花
儀式の様子
ガンジス河


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