6月15日。 僕の誕生日。 僕は自分の年とかにあまり頓着ないから、実際誕生日も大した意味はもたない。 それでも、そんな僕でも毎年この日には忘れられない思い出がつけたされてきた。 さすがに今年は、一人だから、どうしようもないな。 だけど、ボツワナなんていう、まさにアフリカ大陸の中の、日本から遠く離れたところで迎える誕生日っていうのも面白い。 今日はリバークルーズに参加した。 ボツワナと、ナミビアを隔てるチョベリバーをゆっくりと溯ってゆく。 カバの家族が水の中でじゃれあっている横を通り過ぎ、岸辺で日向ぼっこをしている巨大なワニに近づいて観察する。 クルーズはオーストラリアとニュージーランドから来たツアー団体の人達と一緒だった。彼らが集団で写真をパシャパシャ。みなデカイレンズの立派なカメラを持っている。 僕は少し後ろに離れて、のんびりビールを飲んでいた。 なんて心地いい風なんだろう。 アフリカは、どこでも年中暑いイメージがあるけど、この時期南アフリカは冬で、夜はセーターが必要なくらい冷え込む。 夕暮れ時のこの時間は、暑すぎず、寒すぎず、クルーズには最高だ。 象がたくさん集まって水浴びをしている。人間も、動物も、暑さから逃げて体を冷やすのが好きだ。向こうにはバッファローの群れ。数え切れないほど多い。 太陽がゆっくり沈んでゆく。 オーストラリアのおじいさんが僕の隣に来た。 二人で並んで夕日を見つめる。 「今日は僕の誕生日なんです。 この景色は、最高の誕生日プレゼントです。」 二人でほほえんで、乾杯。 夕日に照らされてゆっくり、しっかりと大地を歩いてゆく象を目で追った。 「みんな聞いてくれ。 今日、誕生日の人がいるんだ。 それは、ここにいるジャパーニーだ。 みんなで、彼のために唄を歌おうじゃないか。」 いつの間にか船の中央に移動したおじいさんが、みんなに呼びかけて指揮をとりだした。 みんな笑顔で僕を見つめ、ハッピーバースデイの唄を歌いだす。 船がひとつ唄に包まれた。 ああ、、 僕は、、あのころの僕は、、、 いつもかっこつけてばっかりで、周りの目がとても気になって、そつなく、クールに振舞うよう自分を偽っていた。自分の外側で、もうひとつ自分を監視する目が常に見張っていて、僕を殻の中に閉じ込めていた。 面白いことがあっても、うまく笑えるかどうかということばかりが気になった。 しゃべっていても、どうやって自然に終わらせることができるかということばかりが気になった。 自分の笑顔がぎこちないことが自分でわかって、何もかもが嫌になった。 暗い窮屈な殻の中に自分を隠した僕は、息をしているのに、生きていないも同然だった。 世の中のすべては殻を通る間に振幅を弱め、僕の心には響かない。 僕と世界の間には、冷たい冷たい壁があった。 世界は、スクリーンに映った映画のようなものだった。 いつからだろう、僕は少しずつ変わりだした。 僕の周りにあった殻は時を経るごとに薄くなってゆく。 きっと、ありのままの僕を受け入れてくれるみんながいたからじゃないかな。 何にも飾らない僕にも居場所をくれたみんなが、少しずつ殻を破ってくれたんだ。 この、ダサくて、キモくて、野暮ったいのが、僕なんだ。 こんな僕でもいいんだ。 こんな僕でも居場所があるんだ。 僕は自分がどんどんシンプルになっていることに気づいた。 それが、いいことなのか悪いことなのかはわからない。 でも、僕と世界との距離は確実に近くなってるんだ。 世界がダイレクトに僕の体に伝わってくる。 僕の心は、世界の刺激をそのまま受け入れることができる。 泣きたいときに泣けばいいし、 笑いたいときに笑えばいい、 叫びたいときに思いっきり叫べばいい。 今の僕は、思いっきり叫べるんだ。 だから、僕は、今こんなに満たされてるんだろうな。 心から溢れてくる喜びを、そのまま声に出して、船の上にいるみんなと、日本にいるみんなに届くように。 「ありがとう!!俺、めっちゃ嬉しいっす!!」 |
若い頃の僕は、とにかく自意識過剰で、周りの眼が気になって、
いつもカッコつけていた。
他人から見て、自分がどう映るかばかり気にしていた。
シャイで、不器用で、自尊心の塊。
この時点で、すでにいろんなことをやって、いくつかの成功もしていたけど、
自分に自信など全くなかった。
ただただ、不自然な自分の笑顔が嫌いだった。
今の僕は思う。
お前、十分カッコよかったよ。
それをわかっていたら、もっともっと人生楽しめていたのにね。
光の当たる眩しい世界から、ダークな闇の世界まで、縦横無尽に突き進み、飛び回り、
ありえないくらいエキサイティングな日々を過ごしていたのに、
当の本人は、生きて生きて、結果を出すのに必死で、全然、楽しんでいなかった。
今の僕は思う。
お前の人生、相当、面白かったよ。
それを十分味わわず、必死に何かになろうとして、もったいなかったな。
何でそんな風に生きていたのか。
ボツワナで迎えた誕生日。
ようやくこの辺りから、僕は、自分の素のままで、
着飾ることなく、その瞬間を楽しむことを、学び始めた。少しだけ。
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