その日、僕は寝台バスに乗っていた。 寝台バス。日本ではなかなか聞かない言葉だ。 国土がそれほど広くなく、鉄道の発達している日本では必要のないものだからだろう。 ここは中国、国土は陸地の15分の1、人口は世界の5分の1と言われている大国だ。 日に何本かの列車では国内移動需要をまかなうことは到底できず、遠く何百キロ、何千キロと離れた地がバスで結ばれている。 そこで登場するのが、寝台バス。 通常乗客のシートのあるところに、上下2段、横に3列でひたすらベットが連結されているという簡易な構造だ。 一人に与えられた狭いスペースに横たわって、薄汚い布団を羽織り、僕は大同から西安まで、15時間の道のりを旅していた。 夕方4時半に出発し、翌朝8時に到着する予定だ。 イングランド人の3人組と僕は一緒だった。 デイブ、ジャック、サム。 彼らとは大同のドミトリーで出会い、西安に同行することになった。 彼らも大学を一年間休学してこの旅をしているのだそうだ。 聞けば、18、19歳らしい。 僕よりも若いのだ。 みんな背が高くて、髭やら胸毛やらもじゃもじゃ生やしているから年がわからない。 彼らの場合、この一年間の初めの4ヶ月は旅の資金稼ぎのために働いたのだそうだ。その後の3ヶ月間にネパール、タイ、カンボジア、中国と旅行する計画で、イングランドに帰ったら学校が始まるまで再び働くらしい。 彼らの自立心に尊敬の念を覚えた。 親から借りれば早い話なのだ。僕と同じようにいくらでも旅することができる。働かなくたって世界一周はできる。 事情はどうあれ、現に彼らは自分たちのお金で、自分たちの力でこの旅をしている。 彼らにとって、この旅はかけがいのない大旅行なんだろうな。 まぁ、それは僕にとっても同じか。 彼らの190cmを超えるであろうでかい図体には、中国人用のこのバスのベットはとても小さそうだった。 バスの中で、寝たり、お菓子を食べたり、窓からの風景を眺めたり、贅沢な旅だった。狭いベットに閉じ込められているこの状況を贅沢だと感じるのは僕くらいかもしれないが。。 僕にとっては「移動する旅館」だった。 問題はこの旅館にトイレが無いことだった。 僕は、ダイアリーア(げりぴー)だったのだ。 この15時間という果てしない時を密室に閉じ込められるというこの状況で、 僕は、ダイアリーア(下痢ぴー)だったのだ。 途中で止まったガソリンスタンドで、調子に乗ってクソまずい夕食を食べまくったのがいけなかった。 バスが再び発射すると、少しもせずに恐ろしい感触が腹の中から湧いてきた。 頼みの綱の正露丸はバスの下のバッグに忘れてきてしまった。 次のトイレ休憩まで、何時間かかるかわからないという想像を絶する恐怖の中に一瞬にして放り込まれる。 もしかしたら就寝時間ということで、到着までもう休憩はないかもしれない。 そしたら10時間以上耐えなければならない。。。 それは永遠だ。今の僕にとっては1分が果てしなく遠い。 気にすれば気にするほど、腹の痛みはますます激しくなる。 僕の肛門の筋肉もそう長くはもたない。修行不足がたたった。 僕のキャパをはるかに超えた圧力が肛門にのしかかってくる!! 額から汗が噴出した。 これが、脂汗、、、というものか。 なんて、意識を下半身から離している余裕はないっ マジっっもれるぅぅ 運転手さんに訴えるか? しかし、ここは高速道路だ。トイレなんてそう近くにはない。 トイレまでいけるのか?僕の腹はもつのか? それに止まればほかの乗客にも迷惑がかかってしまう。 出発したばかりで、バスを止めるなんて、、、 しかし、しかし、しかし、もう耐えられない。 体裁を気にする余裕はない。 もう、漏らしてしまう 漏れてしまう それよりはマシだ!!! 僕は運転手さんに訴えた。 バスは、道路の途中で止まった。 そして、僕は生まれて初めて野ぐそをした。 それはいつもと変わらない手順で済んだ。 案外気持ちいいものだった。 僕は、一つ自由になった気がした。 バスに戻ると、イングランド3人組が僕を見て笑い転げた。 笑いもとれるなんて、おいしい野ぐそだ。 また、いつ腹が痛くなっても、すぐにバスを止めて、すぐ横ですればいい。 そう安心すると、嘘のように腹の痛みは無くなって、 僕は快く眠りに落ちることができた。 |
野ぐそデビューの記事。
この後、旅の中で野ぐそは普通の行為になる。
むしろ、汚すぎるトイレでするより遥かに清潔で快適だった。
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