上海は中国ではない。 この街は1850年頃、外国に開港を迫られ、なかば植民地という形で発展してきた。 さまざまな国の建築様式で造られた建物が渾然一体となって形成された大都市だ。 ヨーロッパと東京をぐちゃっとぶつけてどんっと置いた感じ。僕はそんな第一印象を受けた。 この街ではさぞかしナイトライフも楽しいことだろう。そんな期待を胸に到着初日から上海ナイトライフのメッカと言われる新天地という場所に乗り込んだ。名前からして何やらすごそうだ。 しかし、僕の期待はもろくも崩れさった。 そこには、生演奏を聞きながら酒を飲める年齢層の高めバーと、スーツやらドレスやらおめかしして入らなければならない高級そうなクラブしかなかった。すべてが欧米化している。 ここは金持ちの外国人のための街だ。完全に場違いだ。 僕は落胆して宿に帰った。 上海はつまらない。中国に来てまで西洋の遊びをしたくない。もう次の街にいこうかな。 僕は次の日の夜も沈んだ心持のまま、それでもどこかにあるかもしれない中国人の集まる酒場をもとめて上海一番の繁華街、南京路をぶらぶらさまよった。 しばらくして声をかけられた。 [おにいさん、おにいさん。日本人ですか?ちょっと話しましょう。話だけ。話だけ。話だけだよ。 おにいさん 。マッサージは?いい女いるよ。いい女。] へえ、上海にはぽんびきがいるのか。中国に来て初めてだ。少し興味がひかれるが、さすがに女と寝る元気はない。ここで反応してしまうと、こいつはずっとついてくるだろう。無視しなければ。 しつこくついてくるぽんびきを必死で無視して歩き続けた。 ようやく一人振り切ったらまたすぐに声をかけられる。 そんなに僕は女好きに見えるのだろうか。いいかげん面倒くさい。 [おにいさん。おにいさん。日本人?話だけ。話だけ。ちょっと話だけよ。話だけ。話だけよ。] 今度の奴は度を超してしつこい。ずーっと歩いているのにいっこうに離れようとしない。ここまでしつこくされると無視し続けるのがとてもつらい。我慢も限界に来てつい反応してしまった。 [おにいさん日本人?] [そうだ] [女いるよ] [女は好きじゃない] [じゃあ男もいるよ] [男も女も好きじゃない。セックスが好きじゃないんだ] そしたら男は僕がお金を持っていないかわいそうな人だと思ったのかこんなことを言う。 [おにいさんお金ない? お金稼げるよ。おばちゃんの相手する。一日1万円] 何?上海にはウリセンまであるのか。上海の夜事情に興味をもった僕はつい立ち止まって話にのってしまった。 それが、ワンサくんとの出会いだった。 |



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